「この石屋さんから買って良かった」と思ってくれるものを作りたい ー 岡田昌臣さん

「この石屋さんから買って良かった」と思ってくれるものを作りたい ー 岡田昌臣さん

AJI PROJECTでないとできんこと

AJI PROJECTの製品づくりについて
AJI PROJECTの製品はどんなふうに出来上がってきたのですか?
岡田さん

AJI PROJECTの製品は、元々の原型を僕ら職人が考えて、デザイナーさんに「こんなの作りたいです」と提案したんです。それをデザイナーさんが「こんな感じにしましょう」ってアレンジしてくれて、それを今度は僕らが「この加工は難しい」とか「これは無理ですよ」という風に、打ち合わせを繰り返していました。
やっぱり職人それぞれに、各々得意な分野があるんで、デザイナーさんもやり取りをする内に「この人はこの加工は得意だよね」という風に分ってもらえるようになってきて・・・。それで段々完成品に近づいていく、みたいな感じでしたね。

僕の場合は元々墓石製造が主な仕事なんで、四角いものがメインになってくるんです。AJI PROJECT初期の頃から「極力シンプルなやつを」と心がけていました。だから他の職人よりはだいぶなんかパッと見の印象が薄いというか、派手さはなかったかもしれません。でも、そこにデザイナーさんのアイデアが加わる事で・・・なんだろう?刺激を受けたというか、面白かったですね。

僕らはやっぱり「加工サイド」の視点になってしまうんですね。「この工程はこうしたらできる」というようにしか考えない。だけど、デザイナーさんはちゃんとお客さんの方を向いていて、「こういうデザインでなかったらいかんよ」とちゃんと導いてくれるんです。そこがやっぱりAJI PROJECTでないとできんことだっただろうな、という感じがします。

岡田さんが得意とされている加工技術を教えてください
岡田さん

もちろん図面がベースにあって、「図面通りに」が基本ですが、面の太さには拘っています。角の面取りですね。この面取りの太さを全て合わせようとすると、すごく手間が掛かるんです。太くなったり細くなったりが無いように、完全な手作業で均一の太さで仕上げていきます。僕が作っている製品は平面が多いので、こだわるとしたらそこになってくるんです。一番分りにくいところなんですけどね(笑)。

製作をしていて難しい作業はありますか
岡田さん

AJI PROJECTの製品は、早いものでも一つ作るのに半日はかかります。石の切削から始まるのですが、石は自然のものですから、思うようにならない場合もあります。庵治石にはキズがあったり、黒玉や白玉(マグマが冷えるまでの間に取り込んだ別の鉱物の塊)がいたりします。そこを避けて切削しても、切削面に新しいキズがあったり黒玉が残っていたりすることもあります。そこでもう一度ずらして挽いたりしていくと、どうしても時間が掛かっていくんです。
これは墓石を作る時と同じやり方です。AJI PROJECTもやっぱり庵治石製品です。「庵治石ってこういう(低い)クオリティなんだ」っていうイメージを持たれたくないので、小さい商品とか安い商品だからこれぐらいだろういう考え方はしたくないんです。
黒でも白でも小さいものが少しつくときもあるんですけど、それは底面にもってきたり・・・品質面はすごく考えながらやっています。

モデルカー制作は、緊張感とワクワク感

モデルカー製作について
岡田さん制作のモデルカー。バイオーダーで一台ずつ制作している
HUISやSLASHなどの製品以外に、岡田さんがやっていらっしゃるモデルカー制作はどのように始まったのですか?
岡田さん

AJI PROJECTがスタートする前段階からスタートしていて、ある人から「みんなが統一したものを作るだけじゃなくて、各々が好きなもの、興味のあるものを作ってみたら?」とアドバイスを頂いたことがあって、その流れで「自動車とか」というアイデアが出てきました。僕も車好きで、でも流石に石で作った事は無いからちょっといっぺん作ってみよう、と・・・そこから段々と進んでいきました。

最初はもう完全に趣味の範疇だったんですけど、AJI PROJECTを介してふるさと納税の返礼品として出品するようになり、これまで40台以上製作しました。

モデルカー造りの面白さ・やりがいは?
岡田さん

緊張感とワクワク感、ですね。

相手は石ですから、ちょっとでも一回失敗したら、もう取り返しがつかないじゃないですか。しかも1/10とか1/12とか、サイズが決まってる中で、全て本物の車と同じクオリティで、ずっと造っていくというのは緊張感があります。1/8~1/12の3サイズで請け負っていますが、どちらかというと、小さい方が難しいです。大きい方は当てようとしたところにちゃんと道具が当たるんです。でも、小さくなっていくと、本来当てようとしていないところに当たってしまったりするんです。やり直しが出来ないという緊張感にやりがいを感じます。

それと、造ったことのないものを造るというワクワク感、ですね。
普段、自動車ってなんとなくしか見てないじゃないですか。でも作っていくと、その車をデザインしたデザイナーさんとかがものすごくこだわっているところが見えてくるんです。
「こんなところに見えないようなラインがずっと走ってる」とか、「ドアのここの湾曲すげえな」とか。そういうのを見つけるのも楽しいです。

「出荷するまでの責任を自分で持たないかん」

本業(墓石製造)について
岡田石材工業さんは墓石製造が中心とおっしゃっておられましたが、庵治石の墓石を作るというのはどんなお仕事ですか?
岡田さん

ウチはやはり庵治石が多いんですが、大島石とか・・・数は少ないんですけど海外の石を扱う事もあります。庵治石は同じ一塊の石でもこっちの端とこっちの端で目が若干違うこともあるんですよね。それを如何に合わせて行くかが僕らの仕事やと思っています。
原石の段階で目合いが違っていれば、僕らがそれを合わせられるはずはないので、そういう意味で限界はもちろんあります。でもこっちの面は合ってるけど、こっちの面は目合いが少し違うよね、というような場合は、ぐるっと回して合うように組んでいったりだとか・・・。やっぱり、せっかく丁場(採石場)の職人さんが苦労して採ってくれた石ですから、それを「これはいかんわ」と、返すのは引け目を感じるというか・・・、せっかく採れたんですから、それを何とか活かしてあげられるのが、私たちができる事だと思っています。

この産地では、墓石製造も分業制でやってるところが多いのですが、僕が高校卒業後に修業に入った岡崎市の燈籠の石材店は、原石が入ったら完成品にして出荷するまでの全部の工程をするというスタイルだったんです。それを経験したから、こっち帰って来たら「あれ?こっちは分業制だったんや?」と、逆に感じたくらいでした。
他人任せにするのが嫌というワケではないんですが、一から十まで・・・「出荷するまでの責任を自分で持たないかん」と教え込まれたのもあって、全工程を自社でできるようにと、だんだん機械も増やしていった・・・という感じでやってきました。

石工としてのお仕事をする上で大切にしていることを教えてください
岡田さん

僕らの仕事って卸なので、お客さんの顔が直接は見えないんですね。
クレームの場合は卸先さんを通じて「ここがダメだった」と言ってくれるんですけど、良かった場合にわざわざ言ってくれることはほとんどないんです。
ですから、作ったものが全て。お客さんが僕の名前は知らんでも、「その(小売の)石屋さんから買って良かった」と思ってくれる商品を作ろう、と思っています。
中国製だったら安いのに、わざわざ高い国産品を買って下さるわけで、そこまでしてくれるお客さんに対して、より良い商品を・・・みたいな感じでは考えています。

AJI PROJECTの場合は、展示会とかに僕が造ったモデルカーを出品すると、来場者は僕が造ったという事を知らずに、「この車、すごいね」ってちゃんと褒めてくれる。
そんな経験が今までなかったんで、なんかちょっと評価されたな、と・・・直でお客さんの反応が感じられるのは大きいですね。

ラジオを聴きながら仕事をしています

庵治産地の石工
この庵治産地の魅力を教えてください
岡田さん

日本には、いろんな石材産地がありますけど、ここまで山(採石場)と、加工が直結している場所って少ないでしょうね。
石専門の運送会社も多分庵治にしかないと思います。山があって加工があって運送まであるというのは、すごいと思います。

作業中のちょっとした楽しみ、リラックス方法などあれば教えてください
岡田さん

作業中はね、僕ずっとラジオ聴いています。ラジオが必須(笑)。
工場内だと電話の呼び出し音が聞こえなかったので、イヤホン付けて作業をし始めたのが最初だったんですけど、それだけだとなんとなくもったいないなと思って、ラジオを聴くようになりました。それからずっと朝から晩まで仕事中はMBS(大阪のラジオ局)聴いてます。

気分転換はウチの犬(ユウ君オス15歳)と過ごすことですね。ちょっと散歩したり、仕事でちょっとイラッとしたらユウと遊んで気分転換したり・・・みたいな感じです。

岡田昌臣(おかだ まさとみ)さん

1969年生(53才:取材日時点)

岡田石材工業の3代目
岡崎で修業し30代で会社を引き継ぎ、墓石製造工程の全て、そして彫刻まで手がける
担当しているAJI PROJECT商品
HUIS / SLASH / CLAMP / ROLL / BANK / 庵治石製モデルカー etc.
プライベート
車好き。愛車はYARIS