サンドブラストの可能性、産地の可能性 - 二宮 健太さん(前編)

サンドブラストの可能性、産地の可能性 - 二宮 健太さん(前編)

5回目となる今回のAJI PROJECT職人インタビューでは、これまでで最も若い職人、二宮健太さんにお話を伺いました。
(過去の職人インタビュー記事はこちら

二宮さんは、石の職人の中でも『字彫り屋』と呼ばれる職人です。『字彫り』の名が示す通り、石製品に文字を彫るのが主な仕事で、石を切削したり、磨いたりすることはありません。そのため、分業化・専門化が進んだ産地においても『特殊』なスペシャリストといえます。AJI PROJECTのプロダクト作りにおいても、その特殊な技術を活かしたプロダクトを担当しています。

記事は前後編の2部構成となっています。前編では『字彫り』の特殊性や、一人の若い石工としての考えについて話を伺い、後編ではAJI PROJECTのプロダクト作りについて語ってもらっています。

「良いものをちゃんとした形で送る、届ける」 - 二宮 健太さん(後編)

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ブラストは応用性・可能性がある道具

普段はどのような仕事をしていますか?
二宮さん
字彫りの職人は、他の石屋さんとは使う道具も作業内容も全然違います。他の石職人さんのように石を切削したり磨いたりはしてなくて、出来上がって来た石製品に、文字や図柄を彫るのが仕事です。 普段はずっとサンドブラストという道具を使って、運ばれてくる石製品に文字を彫って、色を入れて配達して・・・という感じです。
字彫り屋さんは、石屋さんの中でも少し特殊な存在ですよね。
二宮さん

そうですね。見る人からすると、文字はその製品の「顔」になる事も多いですし、そういう意味でも少し特殊な石屋、ですね。

サンドブラストは、石以外の素材を彫ることももちろん出来るし、彫るだけじゃなく鉄のサビ落としや塗料を落としたりするんにも使える。応用性があるというか“自由“というか・・・ブラストだと小さい加工もできるし。そういう他の石屋さんには出来ん事が出来るっていうところに、色んな可能性があるとは感じてます。

(写真)高さ2m程のサンドブラスト彫刻室に外から手を入れ、圧縮空気で砂状のブラスト材を室内に据えられた石製品に吹き付けて彫る。
石に文字を彫る難しさはどんなところにありますか?
二宮さん

基本的に、文字の太いところは深く彫っていく・・・みたいなのはあるんです。実際、細い所が深すぎるとおかしく見える。でも浅すぎても変なんです。その加減であったり全体を見たときのバランスの取り方っていうのは、やっぱり培ってきた自分の感覚なんです。

その感覚であったり、彫った文字の善し悪しというのは、中々他の人には伝わりにくい所があるんです。字彫りが特殊だからかもしれないんですけど、同じ石屋さんであっても中々分かりにくいみたいで、キレイに彫っているかどうかではなく、価格で判断されてしまうところがあるのが、字彫りの石屋の難しい所です。

同じ文字でも紙に書くのと石に彫るのでは全然違ってて、『うったて(筆文字の起筆となる部分)』の入れ方や、強弱の付け方、その文字に対してどういう意図を持って彫っているか、深さ、バランス・・・。なんか基準があるわけでもなく、言葉で説明するのも難しいんやけど・・・『違和感がないように』というのは気をつけてます。

昔の自分の仕事を見て、「もうちょっとこうしておけば」みたいに感じる事もありますか?
二宮さん

ああ、ありますね、やっぱり。『追加彫り』とかの仕事で自分がやった仕事が、何年かして帰ってくることがあるんですけど、最初の頃のものが来たりすると、「あぁ、今やったらもっとこうするのに・・・」って思ったり(笑)。

それは彫り方の違いというよりも見え方の違いだと思うんです。
『キレイに彫る』のと『キレイに見せる』というのは、少し違うような気がしてて、そういう感覚が最初の頃と比べると、良くなってきているんやとは思います。多分、何年かして今の仕事を見たら「あぁ、まだまだやったんやな」って感じるんやと思いますけどね(笑)。

「石やからできん」は、もう通用しない

(写真)石の種類や彫る文字によってノズルやブラスト材の材質を替える。ブラスト中も圧力を微妙に調整しながら彫っていく
技術だけではなく、そういった感性であったり、観る力を磨くのも大事ですね。
二宮さん

多分、石とか仕事とかに限らず、今まで自分が見てきたものや経験してきたものの影響もかなりあると思うんですね。その中で自分なりにいろいろとアップデートしてきて、「こういう見え方だったらキレイだな」とか、「もうちょっとこうした方がいい」とかって感じるようになる。だから、そういう感覚を常に磨くというか・・・感じるようにはしてます。

やっぱり一番大きいんは、現場彫り(石を工場に運んで彫るのではなく、石がある場所で彫る方法)に行って、どこの誰がしたかわからん仕事を見ながら、「あぁ、上手やな」とか「自分やったらもうちょっとこうするなというのをちょっとイメージしたり、お客さんと話をしたり・・・そういったところから何かしら吸収したりっていうのが、今の感性とか感覚に繋がっとんかなっていうのはあります。

石の可能性を広げていくために、何が必要だと思いますか?
二宮さん

「石やからできん」「石やからここまでや」じゃなくて、そういう固定概念を取っ払っていけば、どんどんどんどん活きていくものがあるんじゃないか?と思うし、「石やけどここまで出来る」って考え方が、多分、今世の中から求められとるんだろう、と思うようになりました。

皆がそういう考え方になってくれたら、多分もっともっと可能性は出てくるし、デザイナーさんと繋がっていけば、「こういうことができるんや」っていうのが発信できるんじゃないか、そうなれば、「職人やってみたい」と思ってくれる人が出てきたり、蒼島だけじゃなくて産地自体にも活気が出てくるんじゃないかなと。

この産地におって、毎日同じモノを見て、同じ職人同士で話をして・・・では多分・・・。やっぱり色んなものに興味や関心をもって、感性を磨いていくことが「こういうことなんだ」「こうやればいいんだ」っていう形になっていくと思います。

「すごい世界観もっとるな!」

職人として、技術以外の部分で影響を受けた人や作品はありますか?
二宮さん

大きく影響を受けたのは、アーティストのJury 川村さんです。Juryさんがデザインした『庵治石の盆栽』が何点か制作されたんですけど、その過程で話をする機会が何度かあって、「すごい世界観もっとるな!」と。

その『庵治石の盆栽』にしても、それまで停滞してた石の加工技術が、一気に「ドンッ」って動いたような衝撃があって、盆栽を石で作ろうという発想もだし、Juryさんが図面をかいて、地元の彫刻職人さんがすごい試行錯誤して作り上げて・・・っていうところにも刺激を受けました。誰にでもは絶対出来ないものを作る事ができる・・・。そういう人たちに囲まれて仕事ができよるんやなと思ったら、考え方が変わった所もあったし、影響される部分は大きかったと思います。

英語を習い始めたっていうところもその方の影響ですよね
二宮さん

そうですね、英語はJuryさんから「今後必要になってくるからしなさい」って言われたのが始まりです。元々、学生の頃から、外国の方とコミュニケーションが取れたら、面白いだろうな、という興味はあったんです。

外国人の感性っていうか・・・観光客見てもそうやけど、日本人って旅行行くときに、オシャレだけど動きにくい格好してるけど、日本に来とる外国人見たら、ウォーキングシューズ、ランニングシャツ、短パン、半袖・・・。最低限の荷物だけ持って移動しとる。そういった違いを見るのが面白くて、「話が出来たらもっと面白いやろな」と思ってたんです。
けど、身につく自信もないし、どうやって勉強したらいいかも分からんし、そもそも勉強嫌いで勉強しよらんかったし・・・(笑)、「今から英語勉強したって・・・」と思ってたんですけど、「とりあえずやりなさい」「続けなさい」「そのうちできるようになるから」っていう言葉を信じて、勉強し始めました。

踏み出すきっかけがそれまでなかったので、刺激を受けた人からそういう風に言われたんが良いきっかけになりました。まだ喋れるほどじゃないですけどね(笑)。

二宮 健太(にのみや けんた)さん

1991年生(32才:取材日時点)

担当しているAJI PROJECT商品
主に AMIME MITSUDE / GRILLE SQUARE

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石を記録媒体として捉えたときに、石製品に刻まれた文字は価値そのものといえます。
インタビュー記事前編では、そんな『字彫り』に求められる技術や、職人としての歩み方について話をしてもらいました。 後編ではAJI PROJECTのプロダクトについて、質問をしています。

→後編『「良いものをちゃんとした形で送る、届ける」 - 二宮 健太さん』を読む